帰り道の忘れ物

兄貴、今日の仕事は簡単でしたね。
ああ、そうだな。なんでも噂では、あの家の住人、年末の福引で海外旅行を当てたらしい。今頃、海外で羽を伸ばしてバカンスを楽しんでいるんじゃないか。
いいなぁ。海外旅行かぁ。俺も一度で良いから行って見たいな。
行けばいいじゃないか。この金で。まあ、俺達の場合、海外旅行と言うよりは高飛びになるがな。
えっ、兄貴、空巣を辞めて陸上選手になるんですか。
ならねぇよ。ええ、なにか、お前は俺が今までアスリートを目指しているとでも思っていたのか。
違うんですか。いつも自慢げに「俺の若い頃は随分無茶をしたもんさ。死ぬか生きるかのスリルたっぷりの綱渡り人生だったぜ」って言っていたから、つい。
違う。あれは言葉の綾だ
兄貴。
なんだ。
俺、何か大事な事を忘れている気がするんですが、知りませんか
知らねぇよ。なんで俺が知っているんだ
あっ、思い出した。あの家の指紋を消すのを忘れてた