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 会社帰りに、割引になっていた二個パックのイチゴショートをカゴに入れると、ミヨはうれしそうだった。
 家に帰って風呂を汲んでいる間にケーキを食べ、ニュースを見た。仮想通貨と女系天皇と豊洲のことをミヨに聞かれたが、うまく説明できなかった。今日は疲れた。沙漠に水を撒くような仕事だね。とミヨが村上春樹から引用した。しかも水道代は自分もちなんだ、と私はため息をつく。
 クレーマーに削られ、上司に削られ、今夜の呑み会を断ったせいで同僚からも削られた。ミヨはその都度、みんな死ねと言って、引き出しの中でカッターをキチキチさせた。
 風呂の中でも、歯磨き中でも、ミヨはずっと私を慰めてくれた。
 冷たいベッドに入って天井を眺めているとミヨが、ずっと夜ならいいな。と囁く。本当にね。と答えると、ミヨはうれしそうに私を覗き込む。でも、駄目だね。日はまた昇るから。
 私はずっとミヨと一緒だ。おやすみミヨ。おやすみ。
ファンタジー
公開:19/04/09 09:26

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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