花粉屋
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陽暮れに暖簾を畳み掛け――もし。と、はんなり柔らかい声。
「花粉屋さんどすな。蒲公英、置いてはります?」
「ございます。どちらをお求めで?」
「関西」
煤んだ緑の袖。髷に咲いた花。胸に組む指はあかぎれに塗れている。
「関西は値が張ります。西洋か関東なら……」
「うちは根っから関西どす。うっかり東へ来てしもて、周りは同じ顔の西洋さん、たまにおっても東さん。それも見る見る減って、うちかていつ消えてしまうか判らん。せやけど生きとる間は、故郷の種を繋ぎたい」
「少々お待ちを」
小さな薬包紙を、砂金の様に抱いた女は、髷の花へ手をやった。
「おおきに。お代はこれで」
「結構ですよ。別口から頂きます」
女はやや躊躇い、再びおおきにと呟くと、黄昏の露地を駆けて行った。
「格好つけ」
「るっせぇな。……さっさと取りやがれ」
露地に胡坐をかく仏頂面の、鼻先を筆で払う。
はっくしょい!金の粒子が紙に降った。
「花粉屋さんどすな。蒲公英、置いてはります?」
「ございます。どちらをお求めで?」
「関西」
煤んだ緑の袖。髷に咲いた花。胸に組む指はあかぎれに塗れている。
「関西は値が張ります。西洋か関東なら……」
「うちは根っから関西どす。うっかり東へ来てしもて、周りは同じ顔の西洋さん、たまにおっても東さん。それも見る見る減って、うちかていつ消えてしまうか判らん。せやけど生きとる間は、故郷の種を繋ぎたい」
「少々お待ちを」
小さな薬包紙を、砂金の様に抱いた女は、髷の花へ手をやった。
「おおきに。お代はこれで」
「結構ですよ。別口から頂きます」
女はやや躊躇い、再びおおきにと呟くと、黄昏の露地を駆けて行った。
「格好つけ」
「るっせぇな。……さっさと取りやがれ」
露地に胡坐をかく仏頂面の、鼻先を筆で払う。
はっくしょい!金の粒子が紙に降った。
ファンタジー
公開:19/04/06 17:30
蒲公英(たんぽぽ)
関西・関東・西洋
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO
ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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