幻想動物見聞録・透子の場合

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一見普通の種でした。黒いゴマのような種は、植えると次の日には双葉を咲かせました。それは硝子のように透明で、触るとひんやりとしていました。おかしいってすぐ気づいたんですけど、どんどん背が伸びて、葉をめいっぱい茂らせて、小さなクリスマスツリーほどになったんです。透明な緑色で、よく見ると中に小さな魚が泳いでいる。おかしなことになったと私は慌てて種屋さんに電話したんですけど、私が行ったその日はお休みだったと言われてしまって。だから私はソレを育てました。暑過ぎればぐったりするし、寒ければツンツンに尖るし、愛嬌のある相棒でした。葉を抜くまでは。
私、綺麗な葉が一枚ほしくて抜いたんです。そしたら、中から水が溢れて次々私の指から入ってきました。あまりに心が痛くて泣きました。
思い出したんです。木の正体は私の涙の木でした。抱え切れない孤独から生まれた種でした。
先生、寂しさは呪いです。そうは思いませんか?
その他
公開:19/04/06 14:25
幻想動物見聞録 書類名『寂寞の樹』

風月堂( 札幌 )

400文字の面白さに惹かれて始めました!
文字や詩のようなものを書くのが趣味です。
情緒不安定気味でアゲサゲ落差のひどい人間ですw
いろんな方々の作品を読んで、心を豊かにしていきたいです。

無料の電子書籍をつくりました。
『ショートショート作品集カプセルホテル【】SPACE』
a.co/1VIyjHz

『枇杷の独り言』
ショートショートコンテスト『家族』最優秀賞頂きました。

写真は全て自前でやっています(笑)

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