ふ、の矜持

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歩いていると突然、天地がひっくり返った。

〈と〉

だてに人生を将棋に捧げてきたわけじゃない。意味は分かる。成ったんだろう。でも、なぜ俺が…。困惑していると声をかけられた。同期の棋士だ。

「ただの〈と〉かよ。相変わらず、つまんねえ野郎だな。ルールの緩和くらい知ってんだろ」

知らなかった。符の範囲であれば歩であることを認める。捨て駒のような境遇に嫌気がさしていた歩たちは、せめてもの自己表現として、さまざまな符をファッションとして取り入れた。

「あそこのは感嘆符だろう」

同期が指さす先には〈と!〉が。
かく言うお前は。
よく見たら〈と♪〉だ。

「若いのは、もはや記号じゃないぜ。ほら、あれは音符仲間の〈ド〉」

急に自分の〈と〉が恥ずかしくなってくる。でも、そもそも俺は〈王将〉になりたくて将棋を始めたのだ。こんな茶番に付き合ってる暇はない。

〈と。〉

「まったく。あいつらしいや」
ファンタジー
公開:19/04/05 22:23

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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