花粉屋(三)
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遠方の農家へ出張帰り、山沿いの並木を通りしな、きゃたきゃた声が注ぐ。
幹に足を掛け、子供が鈴生りに笑う。桜ん坊だ。視線をふっと外す。
けらけら。くふふ。赤子特有の無造作な音。聞かぬ振りを決め込もうにも、先々で何千と待ち受ける。
赤い服。紫の服。黒い服。色はまちまちだが、大きい児でも爪先を超えない。きいきい。あばぁぶう。地面を這うものが、鞄の取っ手をぺたぺた触る。
「ごめんな。お前らにはやれないよ」
足を速める。毎年ただ通過する。過ぎる度、手を合わせたい気になる。
染井吉野。美しさを追求し、人が交配した桜。同種で実を結ばない。付近の山桜を受粉して出来る実も、小さいまま落ち、土くれに還る。挿し木でしか殖やせない桜。
嫌と言う程知っている。花を愛でる桜と、実を取る桜桃は別物。今し方買い付けた花粉の入った鞄を、引き寄せる。
――ぽす。黒ずんだ実が頭に乗る。
口に含む。酸味と渋みに舌が痛んだ。
幹に足を掛け、子供が鈴生りに笑う。桜ん坊だ。視線をふっと外す。
けらけら。くふふ。赤子特有の無造作な音。聞かぬ振りを決め込もうにも、先々で何千と待ち受ける。
赤い服。紫の服。黒い服。色はまちまちだが、大きい児でも爪先を超えない。きいきい。あばぁぶう。地面を這うものが、鞄の取っ手をぺたぺた触る。
「ごめんな。お前らにはやれないよ」
足を速める。毎年ただ通過する。過ぎる度、手を合わせたい気になる。
染井吉野。美しさを追求し、人が交配した桜。同種で実を結ばない。付近の山桜を受粉して出来る実も、小さいまま落ち、土くれに還る。挿し木でしか殖やせない桜。
嫌と言う程知っている。花を愛でる桜と、実を取る桜桃は別物。今し方買い付けた花粉の入った鞄を、引き寄せる。
――ぽす。黒ずんだ実が頭に乗る。
口に含む。酸味と渋みに舌が痛んだ。
ファンタジー
公開:19/04/07 20:56
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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