押しとどめた言葉

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文字を書くのは苦手だった。
気持ちを、考えを、言葉に表すのが苦手だった。
伝える事が嫌いな訳ではないけれど。
得意ではない、というのは。必然的に、人を消極的にするものだった。

それは、たまたま文具屋に寄った日の事。
使い捨てのボールペンが切れてしまって、新しいものを購入しようとしたのだ。

目を、そらす事が出来なかった。
それはただの万年筆で、突飛した見た目をしている訳でもない。
けれど、
「それはね、"心のペン"って言うんですよ。」
そんな店員の言葉をきっかけに。

安直だとは思ったけれど、思わず私は購入していた。

これまで、万年筆なんて高級で縁遠い文房具は使った事がない。
だけれどそれは、使い慣れた…まるで体の一部のように。
さらさらと言葉を紡ぐ。

そして、そのペンで最初に書いた文章は。
「退職届」
と記された一つの手紙だった。
ファンタジー
公開:19/04/04 19:44

塚村( 東京のはしっこ。 )

学生時代、物書きになりたかった過去がありけり。
気まぐれに書いてみようと思いました。

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