シルエット

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「ねぇ、夕日がきれい」
彼女からのメッセージが届いた。
僕は仕事の手を止めて、会社の窓から西の空を見た。
立ち並ぶビルとその間に見える五重塔が連なって、建造物のシルエットがくっきり浮かび上がっていた。
空一面が鮮やかに赤く輝き、まるで京都の街が燃えているようだ。

「山が燃えているみたい」
再び彼女のメッセージが届く。
あちらの街から見えるのは、山が連なる景色だ。
山の名前をいくら聞いても頭に入らなかった僕が、唯一覚えているのは槍ヶ岳くらい。
あの特徴的なシルエットが地球上に造形されるまで、どれだけの年月がかけられたのだろう。
離れてみて初めて、生まれ育ってきた山並みが美しかったことを知った。
一方で、歴史あるこの古都もまた悠久の時間を感じさせられる。

それに比べたら、僕たちが離れている時間はほんのわずかだ。
もうすぐ戻るから。
山のシルエットと彼女のいる場所へ。
青春
公開:19/04/04 19:36

ケイ( 長野 )

ショートストーリー、短編小説を書いています。
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テーマは「本」と「旅」です。

2019年3月、ショートショートコンテスト「家族」に応募した『身寄り』がベルモニー賞を受賞しました。(旧名義)
2019年12月、渋谷TSUTAYAショートショートコンテストに応募した『スミレ』が優秀賞を受賞しました。
2020年3月、ショートショートコンテスト「節目」に応募した『誕生会』がベルモニー賞を受賞しました。

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