骨抜きの種

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『私に触れないで下さい』
角張った指が、姿に反して柔らかい筆致を滑らせる。
ふざけて小指に施した爪紅から、花の汁の匂いがする。写生中だった鳳仙花の匂い。墨と膠と岩絵具、胡粉の臭い。汗と鬢付け油と水白粉の臭い。

障子を抜けた光が、濡れた短い髪と、耳朶から顎、項を幽かに縁取る。青鈍の襟や袖に、眼鏡の蔓に、無言の戯れの残滓が絡み付く。
鳳仙花。爪紅。骨抜き。紙に写した花へ、放った筆先へ、触れて弾けた種が零れる。魚を種と煮ると、身が剥がれ易いから。別名の由来は酷く腥い様で、堪らなく淫猥な舌触りがする。

『我慢出来ない』
引き寄せた筆で、学名の頭を記す。拉丁語と花言葉が交わり、背徳と甘美の味がする。
床を転がした硝子花瓶の、竹を模した意匠。骨の継ぎ目に何処か似て、夕餉は魚を煮ようと思い立つ。
柱に凭れた頭へ腕を回し、軽く歯を立てると、喉仏が忍び笑いに震えた。音の出ない唇が、ゆるりと覆い被さった。
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公開:19/04/04 20:00
更新:19/04/04 19:47
鳳仙花(ほうせんか) ほんのり官能小説風 拉丁(ラテン)

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

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