独妻者

「恥知らず！」「エゴイスト！」証言台に立った被告人Hに罵声が浴びせられ、裁判長が打ち鳴らしたハンマーの音が法廷にこだました。
被告人Hは一人の女性を妻として独占し、自由に人を愛する権利を奪うドメスティックラブ（DL）の罪に問われている、いわゆる独妻者である。
人が人と自由に愛し合う権利は、すべての人類が互いに讃え合い愛し合うという現代共讃主義の根幹であり、生涯に渡る愛の誓約を相手に迫るなどのDL行為は、法に反するばかりではなく、人の尊厳を踏みにじる最も卑劣な犯罪であると言わざるを得ない。
当然、判決は極刑であったが、執行猶予のついた温情判決であった。この場合、執行猶予期間中に独妻主義からの転向が認められれば罪を赦されるのである。にもかかわらず、被告人Hは決しって首を縦に振ることなく、断頭台の露と消えた。
「それでも私は妻だけを愛しているのだ」
それが被告人Hの最後の言葉であった。