落とし魂

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「ああ、落ちる、落ちる」
つり革に掴まっていると、若い女の胸元から青白く光る魂が落ちかかっていた。よほど疲れているのかぐうぐうと眠っている。
次第にずるずると落ちてゆき、車輌の床にごとりと落ちた。
「お嬢さん、落ちましたよ」
と声を掛けると、軽くお辞儀して胸にしまう。

「ああ、まただ⋯⋯」
商店街を歩いていると道端に青白く発光する魂が落ちていた。
おれは埃を軽く払い近くの交番に届けにいく。
「また魂の落し物かね?」
顔馴染みの警官が、気さくな調子でいう。
「ええ、最近は毎日のように落ちてますね」
さっき拾った魂を差し出すと、机の引き出しから柄の太いナイフを取り出して一割ぶんの魂を削り取った。
さらに半分に割ってもらい、落とし魂袋の中にしまい込んだ。

「これじゃ、魂のない人間がはびこるのも無理はない⋯⋯」
おれは背中から蝙蝠の羽を生やすと、子どもたちの待つ我が家へと羽ばたき始めた──。
ホラー
公開:19/04/04 14:07
更新:19/04/04 17:00
ショートショートカレンダー 正月用です、すんません

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
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