異国からの電話

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『電話の声が遠いな……何て?』
「急で驚いたわ」
『ああ。青天の霹靂だったよ。金曜の夜、残業していたら肩を叩かれて、こんな異国に飛ばされたんだから』
「でも元気そう。生活はどう?」
『……やっぱり声が遠いな。綺麗でいい所だよ。あ、そういえば今かけてる電話だけど』
「何?」
『黒電話なんだ』
「へぇ」
『驚いたよ。日本の黒電話が売ってて。ダイヤルを回すのが楽しかった。国際電話だと回す番号も多いし』
「ふふ……子供みたい。ねえ、あなた」
『ん?』
「そっちでは無理しないでね」
『大丈夫。みんな家庭を大事にして定時に帰っちゃうから。これからは金曜日に電話するよ』
「うん。待ってる」
ガチャン!



右手から受話器を離せなかった。
亡き夫の声に心臓の音が鳴り止まない。電話の声は遠かった。でも、大声で話す彼の声に私の心は満たされた。
「金曜日……」
大嫌いだった金曜日の夜が、突然私の中で華やいだ。
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公開:19/04/05 08:30
更新:19/04/05 22:12
スクー 華金を楽しむ黒電話

イチフジ( 地球 )

マイペースに書いてきます。
感想いただけると嬉しいです。

100 サクラ

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