メヲコラス

4
9

古書店でみつけた詩集には詩人の住所が記されていた。
幾つかの詩に心を震わせた私は詩人を訪ねてみようと思った。
健在なのか検索ではわからない。詩人の情報は少なく、今は忘れられた存在だ。私はその理由が知りたかった。
最寄駅はすでに廃駅で、今は朝夕2便のバスが隣町からあるだけ。宿場の辻でバスを降りてさらに30分。桑畑の中にその家はあった。
表札に詩人の名を見つけると私は嬉しくて写真を撮った。すると、
「失礼な人だな」
と声がしたが、姿はない。
「御免ください」
「ここだよ」
どこにいるのだろう。
「ここは詩人の…」
「あんた俺の詩を?」
「一目お目にかかりたくて」
私が一歩前に出ると、
「踏み潰す気か」
そう言われて目を凝らすと、足元に米粒ほどの詩人がいた。
「どうしてこんな姿に」
「俺は変わらないよ」
詩人は縁側で茶を淹れながら、
「今の人は大きい。だからもう俺が見えないのさ」
とだけ言った。
公開:19/04/02 11:53

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容