期待の新星

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男は静かに2.135mの円内に立つと、一度大きく深呼吸をした。
彼は、世界新記録を期待されているハンマー投の選手だ。
大会決勝戦。彼はこの日の為に、精神と肉体を鍛え続けてきた。
二回の投擲が済んだところで優勝は確実だったが、己が持つ世界記録を超えてはいない。
ここからは自分との戦いである。
男はハンマーを握った。アンバランスな軸の回転から生み出される身体エネルギーがハンマーに伝えられ、やがて最高速度に達した鉄球が爆発的な力で空中に飛び出す。

遠くへ、遠くへ……

長い歴史の中、世界新記録は更新され続けてきた。
最初は無理だと思われていた壁を、人は超え続けてきた。
そして彼も、ついに新たな壁を超えた。
投げられたハンマーは、飛び続け、ついに大気圏を超え、地球周回軌道に乗った。
鉄球は星になり、選手の名前が付けられた。

そして今、人類初の太陽系超えを目指し、新たな選手が円に立つ。



 
SF
公開:19/04/04 07:56

堀真潮

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tamanegitarou1539@gmail.com

 

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