はっと・とりっぷ

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出掛けようと思って、雨に降られた。
「今暇?」と電話して、「忙しい」とフラれた。
「手伝おうか」と返して、「自分の方は?」と振られた。
春だってのに、風もお前も冷たいな。

いいや。真昼間だけど、寝ちまおう。
目隠し代わり、古いキャップを冠った。
懐かしい匂い。汗とグラウンドとボールの匂い。
歓声浴びて、マウンドで思いきり振りかぶった。

夢ん中でなら、風も景色も温かいな。
昔は良かった。愚痴っても寒いだけ。
ついでに懐も、素寒貧ってやつだな。


キャップが除けられて、はっとした。
『何やってんだ?』質問が被った。
ミットの代わり、ビール片手の元女房。
昔からお前は、終いにゃ俺に甘いな。

グラスとつまみを並べ、さっき消したテレビをつける。
俺らの母校が、最終回で逆転を決めた。
青春
公開:19/04/04 01:00
更新:19/04/04 00:27
春の甲子園と、元高校球児たち ※女房(役)=キャッチャー

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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