伏し目の人

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長女のお祝いに、地元の神社に詣でた日、僕は想い人と再会した。
全国でも有名な社の境内には、本殿へ続く石段の麓に、一本の大樹が根を張る。この国に名がつく前から生きると云う大幹の窪みに、その人は腰掛けていた。
長い髪も、光の反射で色を変える不思議な風合いの着物も、やさしく目を伏せる面差しも、記憶の中と相違ない。
当時の僕は、袴を着こんだ五歳。
学生を終え、社内で中堅になり、我が子を連れた自分に反して、なにひとつ変わらない姿を見て、得心した。
(どうしたの)と記憶の中の母が聞く。
(あのひときれい)
(どの人?)
恋しさから、徒に詣でることはもうない。会えるのは、また何十年も先に訪れる彼の日だと、今日判ったから。
「長生きしなきゃな」
呟くと、傍らの妻が一拍あけて「そうだね」と笑った。
彼女の腕の中で、新しい時代から一文字貰って名付けた娘が、健やかな寝息を立てている。
その他
公開:19/04/03 19:30

rantan

読んでくださる方の心の隅に
すこしでも灯れたら幸せです。
よろしくお願いいたします(*´ー`*)

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