木曜日とアルトの声

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通り雨が街を濡らす、とある木曜日。電話のベルが鳴った。
「もしもし…」と言おうとする僕を遮るように、アルトの声が響く。
「今週のひらがなは“し”」
それだけで、電話は切れてしまった。

また次の木曜日。アルトの声は僕に告げる。
「今週のひらがなは“あ”」

その次の木曜も、またその次の木曜も…アルトの声はひらがなを届け、僕はそのひらがなをカレンダーに記していった。

ある木曜日。この日は違っていた。
「最後のひらがなは…“う”」
アルトの声は、少し震えていた。
最後のひらがなをカレンダーに書こうとし、僕は今日が“あの日”からちょうど1年ということに気がついた。愛猫のsが逝ったあの日—。

なんとなく、カレンダーに書いたひらがなを順に読んでみると、ひとつの文章が浮かび上がった。
“しあわせをありがとう”


鈴の音と、雌猫にしては低い声が…聞こえたような気がした。
その他
公開:19/04/03 18:13
更新:19/07/09 23:40
届けたい ありがとう を形に 木曜日とアルトの声 アルトの声の主は… 猫ショートショートコンテスト

すみれ( どこか。 )

書くこと、読むことが大好きな社会人3年生。
青空に浮かぶ白い雲のように、のんびり紡いでいます。
・プチコン「新生活」 優秀賞『また、ふたりで』
・ショートショートコンテスト「節目」 入賞『涯灯』



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