私の彼は左手首

あと一ヶ月で契約更新だ。彼は別の『彼』になる。私は長年一緒にいた腕時計を見た。
人間型アンドロイドが主流になった今、世間のニッチな要求に応じて生み出されたのがこの『非人間型アンドロイド』だ。
ある人は猫型ロボット。ある人は冷蔵庫。好きなものに人工脳を搭載させて生活のサポートをしてもらう。これによりペットショップはなくなり、人間嫌いたちにも過ごしやすい時代が来た。
しかし、予想されなかったことが問題となった。元号の改正だ。
このことを予期していなかった開発元は、その場合のプログラミングの不具合を想定してなかった。
もちろん、不具合の際は無償で対応してもらえる。しかし私にとっての問題は、『彼』は『彼』足り得るのかだった。
『呼び方が変わるだけ。流れる時間は同じだよ』
彼は亡き彼の声で教えてくれる。私にとって彼との時間は、人生のほとんどだ。
『大丈夫、いつも一緒だよ』
左手の彼に、手を添えた。