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母屋にある納戸の隣の部屋の磨り硝子の向こうに人影を見たとしても、見て見ぬ振りをしなさい。
小さい頃、祖父からそう言い聞かされていたので、私は古い日本家屋の母屋自体に寄り付こうとしなかった。怖いというより、建物自体に異様さを感じたからだった。
その祖父が納戸で首を吊ったと聞いたのは、私が高校二年の夏だ。お通夜は部活の打ち合わせで、葬式は突然の発熱により親族で私だけ不参加となっていた。
四十九日は、寺での法要ではなく母屋でやると決まり、ざわつく気持ちを抑えて親族が集まる広い和室の隅に座る。
「あの磨り硝子、おじいちゃんが黒く塗りつぶしてあってね、気味が悪いのよ」
それなら人影は見えないから危なくない。それはおじいちゃんが故意にそうしたのだと私は思った。
「あら、このお座敷、襖じゃなくなったのね」
集まった皆が広い和室のそこを見た。それの向こうに黒い影が蠢く。私達は祖父に呼ばれたのだろうか。
ホラー
公開:19/01/10 01:01
磨り硝子 和室

( ネットの海 )

思いついた時に閃きと共に。
意識しているのは難解な言葉を使わず、端的に。

 

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