大御所年末調整

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控室のドアを開けると、背中を丸めてお茶を啜る爺さんがいた。鮮やかな和服に身を包んだその人は、大御所演歌歌手の西島二郎だ。たぶん。
「西島さん、準備お願いします」
「ぁぃ」
声に張りがない。流石に98歳での紅白出場は無理があったんだ。しかも大トリ。リハも体調不良ですっぽかし、本番10分前でこれはないわ。マネージャーが二郎さんをおんぶして歩きだした。ようやく袖まで辿り着くと客席から大きな拍手が聞こえた。いよいよ出番だ。
「引退宣言から20年。奇跡の復活。日本中がジロちゃんの歌を待っていた」
嘘つけ!
「西島二郎さんで『祭り』」
もうダメだ!
と二郎さんを見て目を疑った。活力溢れる眼差しと笑顔。伸びた背筋。威風堂々とした佇まい。しっかりと歩く姿は全盛期の頃と何一つ変わらない。
マネージャーが微笑む。
「あの人はやっぱり化け物だよ」
「ハァ〜〜♪」
西島二郎の威勢のいい歌声がホールに響きわたった。
その他
公開:19/01/07 20:46
更新:19/01/07 22:51
スクー 大御所が年末に調整

のりてるぴか( ちばけん )

月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。

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