いつも一緒に。

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私の母はすごい人だ。
女手一つで私を育ててくれて、仕事があるのに掃除洗濯はもちろん、私のお弁当まで作ってくれる。身なりにも気を遣い、休みの日でも襟のある服に身を包む。もう四十を過ぎているのに私と姉妹に間違われるくらい若々しい。その秘訣は、顔の造りと姿勢、そして髪にあると思う。
特に母の髪は美しくて、まるで夏の夜を溶かしたように黒く透きとおっている。母の髪を撫でる事と父への「行ってきます」の挨拶を私は朝の日課にしているくらいだ。

以前、親戚に「お父さんがいなくて寂しくない?」と聞かれた事がある。どうしてそんな事を聞くのだろうと思っていると、母が来て「寂しくありません。だってあの人は私たちといつも一緒にいますから」と答えた。それ以来、親戚が母に再婚の話を持ちかける事はなくなった。

今朝も私は後ろから母の髪を撫で、父に挨拶をする。美しい夜の色に囚われ、父は今日も呻きの声を私に向けていた。
その他
公開:19/01/06 17:07
更新:19/01/06 22:24

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