もなか

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「ねえパパ、もなかってなあに」
私は少し驚き、少し笑ってから、小学生の娘が喪という漢字を読めたことを褒めた。
喪中。暮れに父親が他界して、この正月はおめでとうを言わないつもりだったのに、仕事で新年の挨拶まわりをしていると先々で会う人たちがおめでとうを言うものだから、なんとなく説明するのも面倒になっておめでとうを返すようになった。
最初のうちはおめでたくはないのだけどな、といちいち心の中で呟いていたけれど、そのうちにそれも面倒になって、積極的におめでとうを言うようになっていた。
すべての挨拶まわりを終えた帰り道、気になっていた靴の中の小石を取ろうとして私は驚いた。
それは父の遺骨だった。
焼き場でつかみ損ねた骨の一部が靴の中に落ちたのだろう。
足の裏の小さな痛みが不意に胸を襲って、私はその場にへたりこんでしまった。
パリパリだったもなかに餡の湿り気がうつりゆくような、私は悲しみのさなか。
公開:19/01/06 14:58
更新:19/01/08 08:38

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