風がやってくる

私の故郷では独特の風が吹いている。
風は良い事も悪い事も全て運んでくれる。ここでは風の便りというものが存在していた。風は神様だった。
私はそんな神様を捨てた。こんな田舎で一生を終えるつもりはない。私は故郷を出る。
「やめとけやめとけ。そんなことしてもすぐに風に連れ戻されるぞ」
そう話すのは従兄だ。
従兄も一度は故郷を捨て、都会に出た。しかし都会の空気が合わず、体を壊してすぐに戻ってきた。
私は絶対に戻らない。都会の病院で完治するまで入院するんだ。
お金の心配なら問題ない。蓄えはある。私は故郷を出た。

数か月後、私も都会の空気が合わず体を壊した。しかし故郷に戻るつもりはない。病院で治療するんだ。
数年後、ついに体が動かなくなった私を医者が匙を投げた。でも都会で死ねるなら本望だ。
病室に風が吹く。私の体を攫っていく。
逆らうことのできない私は風に連れ去られ、故郷は実家の庭に叩き付けられた。