年賀状

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「誰だったかなぁ」
毎年こう思いながらも、もう何十年もやり取りを続けている年賀状がある。どうしても誰だか思い出せないので、モヤモヤして、小学校、中学校、高校の卒業アルバムを見返したりしたが見当たらない。遠い親戚かと思ったが、親父もお袋も知らないと言う。
「だからと言って、住所に訪ねて行って、誰でしたっけというのも間抜けな話だしなぁ。なぁ?」
「また言ってるの?毎年同じこと言ってるじゃない」
妻が呆れた声を出す。

「誰だったか…」
もう何十年と毎年くる年賀状があるが、一向に誰なのか思い出せない。そもそも自分には友人などいない。親兄弟も亡くなり、付き合いのある親戚もいない。妻も子もいない。仕事も辞め、年金暮らしで、私を訪ねてくるものはいない。
もう、自分の名前を呼ぶ人すらいないのだと思いながら、一通の年賀状を書く。誰だか思い出せない。でも、毎年届くこの一通の年賀状が、私を私だと教えてくれる。
その他
公開:19/01/02 15:41

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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