視覚的器官の男

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 軽犯罪法第1条23号(窃視)で逮捕された。不起訴だが周りにバレた。見られるのは、こんなに恥ずかしいことだったのかと思った。これからは、見ないで見る術を身につけねばならないと、思った。
 私が、見たい理由は、触れたかったからだと気づいた。気づかれなければ触れたい。何度か夜這いもしたがその高揚感は視覚的なものではなく、嗅覚的だった。それは野蛮だ。
 見ることが触れることだった私が採るべき道は、「触れて見る」ことしかない。
 触感から視覚的イメージを再構築するのだ。蓄積した視覚情報を、今後培う触覚情報に紐付けるのだ。
 私は、対価を払い女性の肌に触れた。見て想定し、目隠しして触れて偏差を修正した。指で、掌で、手の甲で、肘で、肩で、胸で、背中で、腰で、太ももで、足で。服の上から、靴の中から、ポケットの内側から。
 二年後、私の身体は視覚器官になった。そして、今朝も、満員電車に乗り込むのであった。
その他
公開:19/01/04 14:15
更新:19/05/28 11:41
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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