12
12

「ワイン苦手じゃなかった?」
そう尋ねると、田中は少し伸びた頭をさすってグラスを置いた。
「坊主にしたおかげで髪質と一緒に好みも体質も変わったみたいです」
「おかげじゃなくてせいだろ」
一カ月ぶりに会った田中は、まるで別人だった。黒やグレーの服を好んでいたのに、青いチェックのジャケットと赤いスラックスで店に現れた。

部長のパワハラは度を越している。
プレゼンに失敗した田中は坊主にされ、地下の資料室に異動になった。
火の粉が降りかかるのを恐れて誰も話しかけなくなり、食堂でぽつんと食べる姿を何度も目にした。
そして田中は会社を辞めた。
俺は呑みに誘った。取り繕うように。会社から三駅離れた店に。

「ごちそうさまでした」
店の前でそう言うと、田中の背中から翼が生えた。これも体質の変化によるものか。
街灯の中、飛び立った田中の影と対照的に俺の影は動かない。
それはまるで、今の二人のように思えた。
その他
公開:19/01/03 15:48
更新:19/01/07 12:43

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容