命の実

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仏壇に手を合わせたのは、一周忌過ぎ。
事故死したダチの心臓を移植された俺は、手術に経過観察、退院後も通院とリハビリに明け暮れた。
「遅くなって、申し訳ありません」
「いいえ、来て下さって嬉しいわ」
正直怖かった。保険証の家族署名に彼女の名前を見て、馴染みのコーディネーターが、昔生き別れた、あいつのお母さんと知って、どう受け止めていいか判らなかった。
泥酔運転の事故。『心臓をくれ』とせがんだ3日後。
――まさか、そんな。
「ずっとこちらに?」
「転勤が決まりました」
伏せた目に面影が映る。紛れもなく母親の顔。
「ドナーとレシピエントの家族は、会ってはいけないの。あの子を重荷にせず、貴方は貴方の人生を歩いて」

夕方、彼女の許を辞した。二度と会う事はないだろう。
土産のリンゴ。掴んだ真っ赤なハートを齧る。――しゃく。身体に融け、俺の一部になった命の実。
俺はまだ走る。お前に勝ち逃げはさせない。
その他
公開:18/12/31 23:18
お前のハートが欲しい エピソード4(完結)

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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