親父

2
4

「そうか」
 親父はその一言で、末期がんの告知を受け止めた。
 肺に映る影を見つめたまま、言葉を失ったのは俺の方だ。

 数か月後、遺影に手を合わせ考えた。
 どうして親父は、あんなにも涼しげにして……?
「パパ、じいちゃんとお話してるの?」
 裕太に聞かれ、やや戸惑う。
「うん……じいちゃんが、裕太のことたのむなって」
 そう答え、思わず裕太を抱きしめた。
 自分より大切な命、その温もりを感じ。
 だからこそ、親父のようにはできないと思った。

 三十年後――。
 定期健診の結果が悪く、病院で精密検査を受けた。
「父さん」
「裕太?」
「たまたま仕事の都合がついてさ。それより、どう?」
「医者の話は、この後だ」
「じゃあ、僕も一緒に聞くよ」
 隣に腰掛けた裕太の横顔を、ふと眺める。
 その成長を確かに認め、刹那――

「そうか」

 そう言えた親父の気持ちが、少しだけわかる気がしていた。
その他
公開:18/12/31 13:45
更新:18/12/31 13:48

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容