キャッチボール

8
7

実家の解体が決まった。父は三年前に他界し、一人だった母は我が家へ引越し暮らしている。解体準備のため、僕は一人実家に帰った。そのとき父の書斎から出てきたのは、グローブだった。
父とキャッチボールをした記憶はない。
幼少期の記憶が甦ってきた。
「父ちゃんはいっつも仕事ばっかり!なんでキャッチボールもしてくれへんの……父ちゃんなんか嫌いや!」父は転勤して以来、休みなく働いていた。僕は一人っ子でただ寂しかったのだ。
父は背を向け黙っていた。
父の葬儀の日に母から聞いた話とグローブが繋がった。父は旋盤職人だった。「あのころなぁ職業病でボールも投げられへんかったんやで」このグローブで練習をして、結局あきらめたのだろうか。泥のついたグローブが滲んだ。
自宅に帰り、公園でキャッチボールをすることにした。あのグローブをしているのは息子だ。
「ナイスボール!」
力強い球だった。いつしか僕は、父を投影していた。
その他
公開:18/12/31 13:45
家族 キャッチボール

豊丸晃生( 大阪 )

ショートショートの神様、星 新一を崇拝しています。お笑い好きで怪談も好き。
お笑いネタのような作品が多いですね(笑)
【受賞作品】
「渋谷シティ」
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞受賞。
「我が家の食卓」
ベルモニーショートショートコンテスト入賞。
「電車家族」
隕石家族ショートショートコンテスト入賞。
「大男の力自慢大会」
「スカイフィッシング」
空想競技2020ショートショートコンテストW入賞。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容