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あたしが生まれると、父が畑の隅に木を植えた。

「桐の木にはな、鳳凰がとまるっていう言い伝えがあってな、それはそれは神聖な木なんだぞ」

あたしの名前の由来を答える父親の知性に感心したものだったが、
大人になるにつれ、父親の器のサイズ感は理解してくるものだ。

花札にもある「桐と鳳凰」。およそそんなところから拝借した知恵だろう。

「女の子が生まれると、桐の木を植えてな、その子がお嫁に行くときに嫁入り道具の桐たんすにするんだよ」

好き勝手生きた父親が、唯一自分に残してくれたものだ。

いなくなってしまえば、その自由奔放で迷惑な生き方がみんなの語り草として笑い話になってしまう奇特な人だ。

ある日大きくなった桐の木に、鳳凰どころか、鵯(ひよどり)が巣を作った。卑しい鳥と書くその名前に、みんなで大笑い。

苗字が変わっても、あたしの桐子という名前と、あの桐の木は生き続ける。それが望みだよ。
その他
公開:18/12/31 06:05
更新:18/12/31 06:09

入月裕美子( 日本 )

できることからコツコツと。
 

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