青いイルカ
10
10
「名前の由来。蕾の形が、イルカに似てるからだって知ってます?」
「和名だと、飛ぶツバメ。海が空になっちゃうんですよね」
それが、あの青い花を同時に目に留めた、初対面の会話だった。
――知識の応酬が、互いの家の往復に変わり、何順目かで一線を超えたのは、彼の部屋だった。
マリンアートのポスター。流木の掛け時計。ドアも、壁も、調度品も濃淡のブルーに染まった空間は、引き出しの奥まで波紋が広がり、半開きのサックスのカーテンから、飾り窓を透過した昼下がりが、微かな潮の香りの素足に、人魚の鱗に似た光を投げていた。
ベッドサイドの小瓶に揺れるデルフィニュームと、掌で踊る、合鍵に付いたシーグラスを眺めながら、身体の隅々まで海に浸食されながら、瞼の間を温い雫が落ちる感触に溺れた――
青いイルカ。彼が設定したアドレスを、塗り替えられず使っている。
蕾の萎れた枝から、蒼褪めた花弁が散って床を汚している。
「和名だと、飛ぶツバメ。海が空になっちゃうんですよね」
それが、あの青い花を同時に目に留めた、初対面の会話だった。
――知識の応酬が、互いの家の往復に変わり、何順目かで一線を超えたのは、彼の部屋だった。
マリンアートのポスター。流木の掛け時計。ドアも、壁も、調度品も濃淡のブルーに染まった空間は、引き出しの奥まで波紋が広がり、半開きのサックスのカーテンから、飾り窓を透過した昼下がりが、微かな潮の香りの素足に、人魚の鱗に似た光を投げていた。
ベッドサイドの小瓶に揺れるデルフィニュームと、掌で踊る、合鍵に付いたシーグラスを眺めながら、身体の隅々まで海に浸食されながら、瞼の間を温い雫が落ちる感触に溺れた――
青いイルカ。彼が設定したアドレスを、塗り替えられず使っている。
蕾の萎れた枝から、蒼褪めた花弁が散って床を汚している。
恋愛
公開:18/12/30 22:42
更新:18/12/30 22:44
更新:18/12/30 22:44
デルフィニューム/大飛燕草
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO
ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
ログインするとコメントを投稿できます