ラストスパート

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――死んじまえ酔っ払い。って思ってるな。
病室のドアが閉じ、苦笑する。
中学高校と陸上部で、代表を争った。毎回コンマ差で敗け、並んで舞台に立てた憶えがない。
引退前の試合だけ、俺の不戦勝。あいつは病院で宣告を受け、俺は予選で落ちた。ゴールの瞬間、応援席の無言の声に詰られた気がした。
人気者の部長と、嫌われ者の副部長。父親に死なれ、母親に捨てられ、施設育ちの俺は、恵まれた優等生のあいつが、妬ましくて憎くて羨ましかった。

卒業後も病室は見舞いが絶えず、俺はよくドアで引き返した。
今年の春、後輩とすれ違って隠れた廊下。独りの部屋、歯を食い縛って泣く声を聞いた。カレンダーをびりびり破り捨てる音を聞いた。

別にそれだけじゃねぇけど。
助手席に積んだビールの空と、ポケットの『遺言書』。
最終レース。途中で潰れるか、無事に着くか。
景気良くエンジンを吹かし、アクセルを踏む。
今度は、俺が先着かもな。
その他
公開:18/12/31 18:00
お前のハートが欲しい エピソード3

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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