鼓動を継ぐ者
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「ここに署名」
机に放られた、見慣れた書式。
表面は、有効期限と個人情報、保険者番号が載っている。
彼の自筆だけ記したカードに署名するという事は、後で埋める選択を、私に教える気は無いという事。そして、私がそれを受諾するという事。
「書いて」
重ねた声が酒気を撒く。私は既に彼のより直接な意志を呑んでいて、彼にすれば単に確認だ。けれど、資格がないと知りながら、彼が最後通牒を突き付けない事を祈ってきた。吐息の臭いも、斑気を装った頑固も、死んだ父親に似た彼を、私は生活の為に捨てたのに。
震えを強いて書いたカードを、彼は無造作に仕舞った。
「あんたの事、赦すわけじゃねぇけど。あんたが母親って事も、忘れた憶えねぇから」
言い捨てて去る背中を見たのは、その日が最後だった。
実現などすまいと高を括った、これは私への罰か。
普段より濃いスーツで、私は息子の鼓動を託された、馴染みの青年の病室をノックした。
机に放られた、見慣れた書式。
表面は、有効期限と個人情報、保険者番号が載っている。
彼の自筆だけ記したカードに署名するという事は、後で埋める選択を、私に教える気は無いという事。そして、私がそれを受諾するという事。
「書いて」
重ねた声が酒気を撒く。私は既に彼のより直接な意志を呑んでいて、彼にすれば単に確認だ。けれど、資格がないと知りながら、彼が最後通牒を突き付けない事を祈ってきた。吐息の臭いも、斑気を装った頑固も、死んだ父親に似た彼を、私は生活の為に捨てたのに。
震えを強いて書いたカードを、彼は無造作に仕舞った。
「あんたの事、赦すわけじゃねぇけど。あんたが母親って事も、忘れた憶えねぇから」
言い捨てて去る背中を見たのは、その日が最後だった。
実現などすまいと高を括った、これは私への罰か。
普段より濃いスーツで、私は息子の鼓動を託された、馴染みの青年の病室をノックした。
その他
公開:18/12/31 18:00
更新:19/07/20 20:38
更新:19/07/20 20:38
お前のハートが欲しい
エピソード2
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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