もの足りないもの

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「何か、もの足りないな」
 新居の書斎で、Q氏はぽつり呟いた。親から譲り受けた、一人暮らしには広すぎる部屋。それでもQ氏は幸福・・・・・・のはずだった。
「ああ、これか」
 ふと思い立った旅先で購入した、どの観光地にもある、ありふれた置物。その小さな物体を本棚に飾ると、まるでパズルピースがカチッとはまるように、しっくりきた。
 その瞬間が快感となり、以後Q氏は『もの足りない何か』を感じるたびに置物を増やしていった。そしてある時は並んだ二つの置物の周りを花で飾り、小さな置物が三つになったときはワンホールのケーキを下げて帰った。 
 やがて書斎は、置物のためにそろえたプレゼントで埋め尽くされた。Q氏は幸福だった。
 妻が亡くなってしばらく経ったある日、Q氏は久しぶりに書斎に入った。『家族』でいっぱいになった部屋。気づいたら自身にも家族が増えていた。Q氏はそのまま扉を閉じた。
その他
公開:18/12/31 15:32
更新:18/12/31 18:48
家族 コンテスト

二森ちる( 瞑想と妄想の森で )

二森(ふたもり)ちると申します。
人生の節目に、二つ目の名前をつくりました。童話や小説などはこの名で執筆しています。
怪談やホラー系は「鬼頭(きとう)ちる」名義で活動しています。
どうぞよろしく。

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