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食堂では母親が、揺り椅子で編み物をしていた。暗褐色の毛糸玉が足元に転がり、それをじっと狙っている子猫が滑稽だった。
「コーヒーを飲まない?」
母親は編み物から顔を上げずに言った。不定形の暗褐色のものが、ずるずると床にうねっている。
「いいよ」
信夫は、コーヒーの準備を始めた。子猫が毛糸玉に跳びつき、母は腰を深く屈めて猫を退けた。
湯が沸き、サイフォンを昇る。粉が膨らみ、蒸気が顔を湿らせる。少し放置して、アルコールランプに蓋をすると、コーヒーが降りてくる。
母のカップをテーブルに置き、信夫は立ったまま、コーヒーに口をつけた。母親は、コーヒーには見向きもしない。
母の両手が、腹の前でせわしなく蠢いていた。子猫は食堂を出た。編み物は、日の名残を受けて鮮烈な紅色に煌いた。
信夫は、母が、自分の腹から何かを掴み出しているみたいだと、思った。
「もうすぐよ」
母は信夫を見上げて笑った。
「コーヒーを飲まない?」
母親は編み物から顔を上げずに言った。不定形の暗褐色のものが、ずるずると床にうねっている。
「いいよ」
信夫は、コーヒーの準備を始めた。子猫が毛糸玉に跳びつき、母は腰を深く屈めて猫を退けた。
湯が沸き、サイフォンを昇る。粉が膨らみ、蒸気が顔を湿らせる。少し放置して、アルコールランプに蓋をすると、コーヒーが降りてくる。
母のカップをテーブルに置き、信夫は立ったまま、コーヒーに口をつけた。母親は、コーヒーには見向きもしない。
母の両手が、腹の前でせわしなく蠢いていた。子猫は食堂を出た。編み物は、日の名残を受けて鮮烈な紅色に煌いた。
信夫は、母が、自分の腹から何かを掴み出しているみたいだと、思った。
「もうすぐよ」
母は信夫を見上げて笑った。
その他
公開:18/12/29 14:02
星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。
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