ねずみ

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 毎夜、台所の荒神様の、お供えのご飯を盗みにくる輩がいるので、捕えてみるとねずみだった。ねずみは、ちゅうちゅうと鳴く。毛並みのいい、凛々しい目をした若いねずみで、殺してしまうのが惜しい気がして、私は聞いた。
「どうして、盗みに来るの」
 ねずみは答えた。
「貧しい暮らしで、食べるものもろくにありません。ねぐらでは病気の母と、幼い弟たちがお腹を空かして待っています。どうか後生です。今夜限り盗みを働くことはきっとやめますから、このまま何も言わずにこの身、見逃してはくれますまいか」
 ねずみは深々と頭を下げた。私は迷った。嘘かもしれない。逃げるための言い訳に家族を使っただけかもしれない。
 迷った末に、逃がしてやることにした。ねずみは振り返り、振り返り三度、頭を下げて去って行った。その夜以来、ねずみを見ない。優しいねずみだったのかもしれない。
その他
公開:18/12/29 11:49

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