未来港（MMWT①横浜）

ツアー初日の横浜。
人前が苦手な僕は、楽屋から逃げ出したい気持ちだった。というか逃げようと、出口へ向かうドアを開けた。
驚いた。
潮の香り、カモメの鳴き声、波の音、桟橋。その先には海が広がっている。
不思議な訪問客もやってきた。ここは港らしい。
漁船からは魚の差し入れを。
帆船の冒険家からは隠された財宝の話を。
満月の晩は人魚の奏でるハープにうっとりと。
スマホに救助要請の着信が入り、大荒れの海から船員を助けたり。
帰り際、みんなに感謝された。

ふと嵐で流れ込んだ一枚の板に気づく。なぜかナイフでその板を削ろうと思った。
オールが完成した頃かな。反対側のドアがノックされた。
「そろそろ本番です」
スタッフの声だ。
出口へのドアの先は、廊下。今なら逃げられる。
いや、こっちじゃない。
僕は舞台へ向かうドアを開けた。海水の道が揺れている。僕はボートに乗り、オールを漕いだ。
僕の航海が始まった。