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冬は母と夕食後に、林檎を毎日食べていた。
ある時買ってきた林檎をテーブルの籠に並べる母を眺めていて、それに突然気が付いた。「なんか臭い…。林檎ってこんな匂いやったっけ?」私はそう呟くと、その日は林檎に手をつけずキッチンを後にした。
「あんた風邪の時はいつも私がすりおろした林檎を食べよったのに…」
私はその声を背に、その日から林檎は一切食べなくなった。
翌年の春、花粉症の薬をもらいに内科へ行きアレルギー検査を受けてその理由がわかった。検査項目で林檎は陽性と出たのだ。
だからその後母が入院した時も、林檎を剥いてはあげなかった。

数年後、久しぶりに友人に会いに家へ遊びに行くとアップルパイを出された。私は一口だけのつもりで息を止めて食べた。それは意外にも美味だった。後で分かったのだが、加熱していればアレルギーがあっても食べられたのだ。

私はアップルパイを母と食べたかったと、遺影を眺めて泣いた。
その他
公開:18/12/29 08:00
更新:22/05/23 00:19
アレルギーなのも匂いが苦手 なのも私の本当の話です。 そして何故か林檎のお菓子は好き

ことのは もも。( 日本 関西 )

日本語が好き♡
18歳の頃から時々文章を書いています。
短い物語が好きです。
どれかひとつでも誰かの心に届きます様に☆
感想はいつでもお待ちしています!
宜しくお願い致します。

こちらでは2018年5月から書き始めて、2020年11月の時点で300作になりました。
これからもゆっくりですが、コツコツと書いていこうと思います(*^^*)

2019年 プチコン新生活優秀賞受賞
2020年 DJ MARUKOME読めるカレー大賞特別賞受賞
2021年 ベルモニー縁コンテスト 入選

カントー地方在住
 

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