お前のハートが欲しい

「医食同源って言うだろ」
見舞いに来た悪ダチが言った。
「漢方の考えで、身体の不調部分と同じ部位食うと、治るって。たとえば肝臓にはレバーが効く。……大声じゃ言えねぇけど、理想は人間らしい」
人の病室でビール開けて、レバ刺し摘みながら言うな。
俺はお前と違い、明日をも知れないドナー待ちだ。
「心臓なら、ハツか」
「病人食じゃ出ねぇか。あ、焼き鳥あるけど食う？」
「……なぁ。お前が先に死んだら、俺に心臓くれる？」
「良いよ、死ねばゴミだし。遺言書作っとく」
死んじまえ酔っ払い。虫の喰った胸で嗤い、見送った。

奴が事故で死んだのは３日後だった。
馴染みのコーディネーターが、『遺言書』を見せてくれた。
「原則、親族以外の優先権は考慮されませんが」
保険証裏の意思表示。１と、３の下の【心臓　に丸印。
特記欄に、俺を最優先と書いてあった。
「ドナー登録は、随分前に。緊急性と適合率、貴方が一番でした」