般若・侍・刑事・忍法

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「般若といえば?」と、彼女が言った。
 僕が「桃太郎侍」というと彼女はブッブーと×を出す。
「萩原流行でした」
「般若面なら桃太郎侍だよ」
「お面じゃないよ般若だよ。だから正解は流行さん。スケバン刑事知らないの?」
「スケバン刑事なら蟹江さんの方だよ」
「ふ…ん。一理あるわね」
 珍しく彼女が頷いている。
「多分、君は桃太郎侍を知らないんだ。時代劇なんて見ないんだよね」
 僕は彼女を挑発してみる。
「は? 言っておくけど、私、時代劇にはうるさいわよ。じゃ、あれ言える? ひとぉーつっての」
「もちろんだよ」
 僕は張り切って先を続けた。
「人の世に蔓延る悪の。ふたーぁつ、不埒な悪行三昧。みぃーっつ。醜い…」
 バスが来た。彼女はさっさとバスに乗り込んでしまった。僕は、台詞を言ってしまいたい気持ちを抱えたまま、すごすごと彼女の後ろの席に座った。
 少しして、
「忍法と言えば?」と彼女が言った。
青春
公開:18/12/30 14:34
更新:18/12/30 15:44

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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