みかん

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 お母さんが、くずのみかんを袋一杯もらってきた。小さくて、いびつで、色もヘンだった。でも、甘い。とっても甘い。
「うちのお墓の隣の、蜜柑のおばさんがくれたのよ。表に出せないから、引きとって頂戴」って。
 お母さんはそう言いながら蜜柑を剥いた。私も、二つ目を頬張って、三つ目を手に取った。その蜜柑は、何だか、シワシワだった。
「おかあさん。これ、駄目かな?」
 お母さんは、自分が剥いていた蜜柑を丸ごと口に頬張ってから、私の蜜柑を手に取った。唇から汁が垂れている。
「なんだか、固くてヘン形なのね」
 お母さんは、皮をビリビリと剥き始めた。だけど、半分くらいで手を止めた。
「お母さん。やっぱり駄目?」
 お母さんは、蜜柑を見て、情けなさそうに溜息をついた。そして、
「あなたは絶対に、こんな、おばあちゃんみたいになっちゃ駄目よ」
 と、恐ろしい声で私に言うと、その剥きかけの蜜柑をゴミ箱へ放り込んだ。
ホラー
公開:18/12/27 09:21
更新:18/12/27 09:32
百物語 杉浦日向子さんに 類話あります

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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