それは本当の孤独ではない

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 安楽椅子に女。男は鉛筆の尻でノートをつついている。
 「本当のことを言ってごらん」
 「あのクラスにはいないの」
 「級友がいないのかい?」
 「いないの。私がいないの」
 「詳しく話してみてくれないか」
 男が促す。女は天井を見上げたまま頷く。
 「私は手を挙げたけれども誰も注目してはくれなかった。私は話したけれども誰も聞いてはくれなかった。私は倒れたけれども誰も起こしてはくれなかった」
 「君は存在しなかった」
 「私は認めて欲しかった」
 男は女が泣いている事に気付き、数滴をスポイトに採取する。
 「叫ぶものが皆、声を持っているとは限らない。立ち上がる者が皆、足を持っているとは限らない。大きく手を振るものが皆、旗を持っているとは限らない」
 「私を責めないで。私は本当の孤独を知っている」
 「それは孤独ではない!」
 男は叱責する。そして、新しい鉛筆を削るために、女の傍らを離れる。
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公開:18/12/25 09:03

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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