優しい彼と謙虚な彼女

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桜が綺麗な花を咲かせていた3月末日、先輩との別れの日はもう目前まで迫っていた。
先輩の隣に並んで歩けるのも今日まで、幸せな日々はもう終わってしまう。


「先輩、あの…」
「うん?どうした?」
「…ううん、なんでもないです」


私が声をかけると、先輩はやんわりと微笑みながら優しい声で返事をしてくれる。
その顔を見ると、どうしても顔が熱くなって声が出せずに固まってしまう。
先輩はその度に私に話題を振ってくれるから、嬉しいけれど少し心が苦しかった。
先輩は酷く優しい人だから、私以外に相応しい人がいるはずなのに。
でも、先輩に彼女ができたら…とてもモヤモヤしてしまうだろう。
言わなきゃいけないのに、どうしてもその勇気が持てなかった。


「先輩、あの」
「うん、わかってるよ。だから少しだけ遠回りして帰ろう?」


怖くて言えなかった2文字は、右手から伝わる彼の温もりが奪い去った。
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公開:18/12/26 21:42
更新:18/12/26 21:46

べね( 千葉 )

私の作品を読んで頂きありがとうございます。

趣味でショートショートを書いています。
だいたい即席で書いているので、手直しする事が多々あります。
多忙のため更新頻度はとても低いです、ごめんなさい。
星新一さんや田丸雅智さん、堀真潮さんの作品に影響を受け、現実感のある非現実的な作品を書くのが好きです。
最後の1文字までお楽しみください。

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