落椿

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しんしんと冷える空気に、陽光がほのかに背中を暖める12月の朝。
駅までの道すがら、どこかの家の椿が白に赤い斑入りの花をぽとり、ぽとりと道に落としていた。
雪のように降り積もる落椿の美しさに見惚れていると、上の方からピィーヨ、ピィーヨと鳥の鳴く声がする。落椿がモゾモゾと動き出しかと思うと、たちまち白に赤い斑入りの美しい鳥になり、次々に空に飛び立っていった。見ていると何羽かは椿の樹に戻り蜜を吸っているようだ。
そう言えば椿の花が頭から落ちるのは、虫のいない冬に鳥に蜜を吸ってもらいやすい造りになっているからだったか。
おや、一輪だけうまく飛び立てずにモゾモゾと動いている花がある。
思わず拾おうと屈むと、その瞬間驚いたように飛び、私の胸にとまった。そうして、鳥は恥ずかしそうにうつむくとチチッと鳴き、椿に姿を変えた。
持ち帰り水に浮かべると、それは白に赤い斑の魚となったので、椿と呼び可愛がっている。
その他
公開:18/12/26 12:57
更新:18/12/26 21:00

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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