その影の正体

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 もう、土手で仰向けになるしかなかった。部屋はあるが、来月の家賃の当てはなかった。スマホもそのうち止まる。換金できるものはみんなした。換金できないものはゴミだ。借金背負って生きる価値などないと思う。
 日が傾くにつれて、芝生の影が肌を這い上ってくる。どうでもいい。目を閉じる。夜は氷点下の予報。眠ってしまおうと思った。
 だが、瞼の上をひっきりなしに、何かの影が通り過ぎる。その度に光がチラチラしてイライラした。目を開けて上目遣いで土手の道を見る。誰もいない。だが影は、目の上を通り過ぎている。起き上がって振り返る。沈みかけの夕日が真正面にある。目が眩む。誰もいない、いや…
 土手の道端の刈り込まれた芝生の端を、延々と蟻の行列があった。傾いた日が行列を照らして、下り斜面の土手にその影が長く伸びていたのだ。
「蟻にだって影がある」
 俺は太陽に土下座をするような格好で、蟻の行列を見つめ続けていた。
青春
公開:18/12/23 18:18
更新:18/12/23 18:44
undoodnu祭 その影が追いたい

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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