その影を追いたい

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「毎度ありがとうござ~い」
 質屋にもちこまれた着物を確かめ、日に透かし見て丁寧にたたむ。天涯孤独となって二十年ほどが過ぎようとしていた。

 幼かった私を真ん中に、父と母につれられて初めて見たお芝居の帰り、買ってもらった紙風船が風に舞ったのを追ったところを侍が通りがかって、騒ぎになった…
 母に痛いほど抱きしめられ、私は拳をぎゅっと握って、父が袈裟懸けに斬られるのを見ていた。
「無礼打ちだってさぁ。かあいそうにねぇ~」
 呆然とする母を支えながら、私は拳に何かを掴んでいる気がしていた。父の骸の残る地面に映った私の拳の影が、侍の着物の切れ端の影を、掴んでいた。

「毎度ありがとうござ~い」
 質屋に持ち込まれた着物を確かめ、日に透かして見る。着物の裾の影が破れている。私は、震える拳の影を重ねてみる。あの日の影の切れ端が、ぴったりと合致する。質帳を改め、質流れの刀を手に、私は店を後にした。 
ファンタジー
公開:18/12/23 13:51
更新:18/12/23 16:50
undoodnu祭 その影が追いたい

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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