僕らの秘密

マリさんは泥棒だ。
その日、マリさんは紙に包まれた平たい四角い荷物を持って帰ってきた。梱包をほどくと、出てきたのは夜空を背景に描かれた花嫁の絵だった。
白いベールを被り、赤いドレスを着た花嫁に、夜空と同じ色をした男がそっと触れてキスをしている。山羊がチェロを弾き、密かな誓いが結ばれる。
「シャガールだ」
「この絵を知ってるんだね。有名な絵？通りがかりに見かけて、気に入ったから盗んじゃった」
「凄く有名な絵だよ。『花嫁』か『結婚式』ってタイトルだったはず」
絵を見ていると、「この絵は僕のことだ、僕らのことだ」という思いがこみ上げてきた。
マリさん、この絵を返してきて。この絵は本当に大事に守ることが出来る人のところで、永遠に大切にされなきゃいけないものだから。