黒の世界にて

ある日、この世界に黒いものが出現するようになった。
まず最初に現れたのは年老いたおじいさんだった。
全身が黒く、顔はほとんど識別出来ないが、その腰を曲げた姿から老人であると推測するのは容易い。
続いて、その近くに黒い犬が現れた。
輪郭はやや曖昧だが、口を動かしてワンワンと吠える様はまさしく犬だ。
そして黒い犬を連れているのは少女だろうか。
小さな体とスカートの輪郭が分かるが、彼女もまた黒一色に染め上げられていた。
犬が吠えるのを聞いて、老人と少女は何か相談していたが、しばらくすると少女は犬を連れてその場を離れた。
というより、消えてしまったという方が正解かも知れない。
そのあと、老人も何かセリフを呟いたあと、同じように消えてしまった。

しばらくして世界は光に包まれた。
誰かが言った。
「見事な影絵でしたね」