難転（なんてん）

災い転じて福となす、と申しますが。

お前様、南天の木は御存知ですね？『難を転じる』に掛けた、赤い実の縁起物。――そら丁度、お前様の庭にある。
あれ、洒落などではありませぬ。
あの赤い実、まこと主の難を引き受ける。
人生を振り返れば、九死を逃れた経験がありましょう？幸いお前様が、今日生きて在るのも、幾分かは、南天の力ゆえ。

ただ、肝に銘じなされ。
南天に、難を逆に転じる事は出来ぬ。己に転写し受けるだけ。真っ赤な実は、難を騙し騙し乗り切った、真っ赤な嘘の色。南天の流す血の涙。

人の業は、木の一本では庇いきれぬ。いずれ矯めた枝の撥ねる様に、小さな難の積み重ねは大きな災いとなり、お前様の首を刎ねるか知れぬ。赤いはずの実が、もしどす黒く染まったら、それが潮時。

悪い事は申しませぬ。身を慎みなされ。
いいえ。積んだ難は今更消せぬ。増さぬ様、努めるだけ。
――それと、その時の覚悟を固める為です。