立体駐車場と十数年ぶりのガム

9
6

 冬晴れの正午過ぎ、立体駐車場のスロープで車が詰まった。後ろにも車がある。サイドブレーキを引く。前の車が発進する。私は緊張しつつアクセルを吹かして半クラッチにし、エンジン音の変わり目でサイドブレーキを開放する。飛び出すように、坂を上り始める。ゴムの焼ける匂いがして、妻が顔を顰める。前の車がハザードを出す。再び停車する。妻と、指輪の話などをして待つ。前の車はどうしても右に寄ってしまう。妻に、今日はバームクーヘンを買うだろうかと、尋ねる。前の車の女性の眉間の皺は、こちらのドラレコに録画されているよ、と囁く。私たちもハザードを出す。後続車両が消えている。不思議だね、と話しながら、私は一度で駐車する。隣のプレマシーに人が乗っている。注意して扉を開ける。私たち以外の全ての車に雨滴がついており、人が乗っている。二人きりでエレベーターに乗る。駐車場を出てすぐ、私の右足は、十数年ぶりにガムを踏んでいた。
その他
公開:18/12/19 17:13
更新:18/12/19 17:17

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容